社長の視点から、どこまで下に落とした伝達ができるか【零細企業の人材育成】

人事系コンサルタントの永江です。
社長は従業員とは違う視点を持っていて、それはより高いところから俯瞰で見る目のことになります。従業員がこの視点を持つことは極めて難しくて、通常はそのまま説明して分かってもらえるものではありません。だから、あるていどの規模をもった企業の場合は中間管理職があって、この人たちが社長の視点を現場スタッフの視点をつなぐ役割を担います。

零細企業は中間管理職が居ない

形式上のことを除いて、零細企業には「中間」管理職が居ないことが多いです。要らないことが多いというのが正解でしょうか。とにかく社長から末端のスタッフ、従業員までの距離が、物理的にも精神的に近いです。

だから社長から直接に指示を受けることがしょっちゅうだと考えられます。社長の考えを伝えるときも直接のことになるでしょう。基本的には、間に誰かを挟まずに、まさに社長の言葉で思いや指示を伝えることになります。

視点が違うから言葉が通じないことがある

直接の言葉で伝えるなら言いたいことがちゃんと伝わるかというとそうではありません。持っている視点が違ったり、ふだんから考えていることがちがったり、価値観がちがっていたりすると、言葉の定義やニュアンスすら異なり、そのまま伝わらないこともザラです。これは誰が悪いとかではなく、生きている世界が違うから仕方ないことだと思ってください。

下の経験しかないなら上の視点は持てない

視点の違いがあると言葉が通じないことが大いにあるわけですが、片方がもう一方の視点に切り替えることができたら通じるようになるはずです。ところが、被雇用者、つまり会社に雇われて働く従業員スタッフとしての経験しかない人に、経営の視点を持てというのはムリがあります。行ったことがない場所、写真やなにかでも見たことがない場所、そういう場所の風景は想像するしかないように、社長が持っている視点は現場スタッフにとって、せいぜい空想するのがせいいっぱいで不正確なのです。

逆に、経営者の視点を持っている社長が下の視点を持つことは可能でしょうか。これも決して簡単ではありませんが、どちらかというとこっちがまだ可能性があります。なぜならば、社長も現場の経験があるだろうし、かつては末端の従業員であったからです。(まったくそういう経験がない場合は別です)

伝える言葉としての視点を落とす

現場スタッフに社長の考えを伝えるときに、言葉が通じないことが多いと書きました。でも、そのままでいいわけはなく、できるだけ伝わるように工夫や努力をすることも大切です。考えや視点そのものを落とすと社長の役割を果たせなくなるから、伝えるときの言葉えらびとして、下の視点のためのものを考えます。社長が持っている視点での考えや方針や指示を、下の目線から見ても理解や納得ができるようにするわけです。この言葉えらびは作文技術としても簡単ではないかもしれません。でも、あなたが考えていることを有効にスタッフに伝えるために、必要な心構えとして考えていただけると嬉しいです。

 


 


経営者の感情労働について考える【零細企業の人材育成】

人事系コンサルタントの永江です。
感情労働という言葉があります。昔から言われる「肉体労働」と「頭脳労働」に次ぐ3つめの労働としての比較的あたらしい考え方です。そして、人材育成を考える社長さんに、知っておいていただくと良いのではないかと考えています。

感情労働とは

まず、感情労働とは、感情によってこなしていく仕事といえます。たとえば、カウンセリングとかがそうですが、自分の感情、少なくとも表に見えるものはコントロールしなくてはいけません。そして、表に見える表情やしぐさにおいて職務上で有効でないものを出さないようにするためい、自分の感情そのものもコントロールしたほうがよい仕事ということになります。

感情労働が求められる仕事の種類としては、カウンセラーのほうかに、各種の接客業や講師業、コールセンターのお仕事、士業のお仕事などがあります。他者と接して双方が気分よく事を運ぶ必要があるのなら、けっこういろんな業種が当てはまると思います。たとえば一般事務職のなかにも感情労働はたくさんありそうですし、ITエンジニアも感情労働を求められる場面はけっこうありそうです。

経営者=社長の感情労働

感情をコントロールして相手に良い接し方をするのであれば、それは経営者が部下スタッフに対する場面でも考えられそうです。部下のミスを咎めるときにどうするか。部下の成功を認めて褒めるようなときにどうするか。いずれも社長さんの感情が表に出そうなところですが、どうするのが良いでしょうか。

感情をコントロールするといっても、かならずしも抑制するのが良いというわけではありません。もしかしたら、場合によって、心からの喜びや怒りや悲しみを相手に伝えることが有効な場面もあるかもしれませんから。ダメなケースを考えるといいのかもしれませんが、感情をコントロールできないことによって、相手にも良くない結果になり、自身や会社にとって良くない結果にもなることを避けたいです。

感情に任せて反応するのではなく、冷静に事象を受けとめて、どのように相手に接するのが良いか考えて、必要であれば厳しく接するし、必要であれば自分の感情を表現します。表情の作り方や声色のコントロールもうまく出来ればいいと思います。脊髄反射的に、感情にまかせて何かを言っているように部下に捉えられないことがポイントではないでしょうか。

落ち着いて一緒に成長を考える

部下の成長を願うのは当然のことですが、社長のそういう考えをスタッフが理解してくれるためにはなんらかのメッセージが必要です。それは言葉によるものだけではなく、制度設計や報酬の与え方なども考えられます。いろいろ考えたらいいのですが、接し方が感情まかせのキーキーした感じでは伝わらないと思います。冷静に、思慮深く考えて、一緒に従業員の成長を考えていけるようなスタンスが良いのではないかと思います。

社長は言葉をケチらない【零細企業の人材育成】

人事系コンサルタントの永江です。
今日は、零細企業の社長が社内のスタッフ向けに「言葉をケチってはいけない」ということについてお話をします。

言語化するのが面倒くさい?

ある社長さんは、従業員と実際に会ってお話をする機会が少ない事情があったために、チャットワークを社内コミュニケーションに活用しています。人数の少ない会社ですから、全体としてのグループチャットと、個人どうしのチャット、この2本だてで活用されています。もちろん、全体に共有すべきことと、他の人には知らせずにひとりひとりと個別のお話をするための使い分けです。

お話をうかがっていると、どうも、チャットで文字を打つのが面倒くさいようです。タイピングの速さは人並みよりちょっと遅いくらいで、そこはいいのですが、伝える文章を考えるのに時間がかかるようです。いわく「電話でしゃべって伝えるほうが速い」とのこと。でも、そもそも時間を合わせて話しにくい社内事情があって始めたことです。なんとか、面倒くさいという思いを振り払って続けていらっしゃるとのことです。

社長が言葉をケチらないということ

たしかに、慣れていなければ、アタマの中にあることを言語化するのは労力を使います。疲労感もあるかもしれません。面倒くさいと思うのも無理はありません。でも、この社長さん、それでも有用なことだから、自分が面倒くさがったりしないで続けるのだとおっしゃっています。月並みで申し訳ない表現になりますが、偉いと思います。

この社長さんが考えていることは、言葉をケチらないということです。面倒くさいので言葉を省略したくなることがあるけれども、それだと誤解を生む可能性が大きくなる。あるいは、勘違いで間違った指示の受け方をされてしまうかもしれない。それでは結果的に余計な手間や時間がかかるし、意味がない。そうならないように、ご自身は言葉を丁寧に考えて丁寧に書いているそうです。

言葉を上手に省略すると、表現は抽象的になります。抽象的になると全体像を共有するには良いのですが、受け手に誤解が生じる可能性が大きくなります。そうならないように、抽象的にまとめた表現と、具体的で詳細な表現は併用するのが良いです。一方で、零細企業の社長さんは忙しいことが多いから、なるべく時間を省略したくなって、言葉をケチってしまう可能性も高いです。

従業員の手間は会社にとってコストです。だからなるべくこれを軽減したいところですね。でも、社長の手間は、場合によっては投資と考えられるかもしれません。もちろん従業員の給料・賃金も投資になりえるのですが、経営者自身が自分の行動を投資とするのは、自分のことだから心がけしだいでできるはず。スタッフに何かを伝えるときに、言葉を惜しんでケチるのではなく、丁寧に言葉を紡いで、しっかり情報伝達をしましょう。もちろん、正しい日本語を使うようにしなくてはいけません。

小さな会社でも人事制度は必要【零細企業の人材育成】

人事系コンサルタントの永江です。
今日のお話は、小さな零細企業にも人事制度、とくに評価や教育に関する制度が必要なのかどうかという内容です。
結論を先にいえば、小さな会社にも人事制度はあったほうが良いです。

人事制度の本質は個人と組織の成長にある

組織というのは成長を目指すようにしないと持続すらしなくて衰退します。継続するためには成長を考えるのが良くて、そのために従業員の成長は不可欠です。人事制度というものは何のためにあるのかというと、スタッフ個人を成長させ、それによって会社そのものが成長するためです。これは規模の大小に関わらずいえることだと思います。

個人と組織が成長しさえすれば制度は不要ということにもなりそうですが、制度なしで運用するのはおそらくうまくいきません。なぜかというと、人は自分が思っているほどにちゃんとはしていなくて、社長が考える「成長のための施策」「評価する方法」というのも同じだからです。

評価や教育には納得感が必要

ちゃんと制度化していない方法でスタッフを評価しようとすると、どうしてもどこかに不満が出てきます。「自分は自分なりに頑張っているのに評価してもらえない」とか「社長は自分の何が足りないと思っているのか分からない」とか、そんな思いを持たれて良いことなんてありません。だから制度をつくっていく中で従業員に求める要件を明文化していき、何に頑張ればいいのかを分かるようにするんです。

明文化して分かりやすくするのは評価だけでなく教育についてもです。スタッフの成長に資するもの、なおかつ会社の利益につながるものであれば積極的に会社の費用として支出をし、労働の時間として評価してあげます。そうすれば「これが会社にとって、自分にとって必要なのだ」と分かるようになり、社長の方針や考えと部下の成長の方向性を整えられます。

会社の大小は関係ない

おそらく、大きな会社であればあるほど人事制度はしっかりと構築されていることでしょう。逆に小さな零細企業だとそこまで手が回らないという理由などから人事制度がないことが多いです。たしかに目の前の発注に対応して、営業もして、となれば忙しくてたいへんです。でも、忙しいからこそ、あるいは実は、小さな会社だからこそ人事関連のことは制度化したほうが良いのです。

あなたが零細企業の社長さんで、社員の成長が会社の成長につながるとお考えならば、ちょっと考えてみましょう。あなたは、指導や教育をすることが得意ですか?得意であればそれでいいです。でも、特定の分野で起業した人じゃなければ指導や教育はあまり得意ではないはずです。だから、そこは制度化して、制度が指導や教育をしてくれるようにしておくのです。

会社のルールは会社から従業員へのメッセージになりえます。こういう働き方をしてほしい、こういう行動を仕事の中でしてほしい、そういうメッセージがルールには込められます。このことは人事制度についても同様で、上手にやっている会社は制度の中で自然に社員が成長します。大きな会社に人事制度がちゃんとあるのは規模が大きいからではありません。それが上手な方法だと知っているから制度を作っているのです。その上手な方法を小さな会社だからといって使わないのはもったいない。あなたの会社でも、ぜひ、人事制度の構築を検討してみてください。

具体的な能力と抽象的な能力【零細企業の人材育成】

人材育成コンサルタントの永江です。
小さな会社で人材を育成するためのお手伝いをしています。

具体的な能力と抽象的な能力

これは私が勝手に使っている言い方なのですが、仕事に必要な能力を大きく2つにわけて、具体的な能力と抽象的な能力と呼んでいます。他のところでは通用しない言い方だと思うので、ここにかぎった言葉の定義として考えてください。具体的な能力とは、その業種のその職種に必要なスキルや知識のことです。たとえば、経理事務職の人にとっての簿記の知識やPCを使った入力作業のスピードなどです。これに対して抽象的な能力とは業種や職種にかぎらず有効なスキルなどのことで、たとえば論理的に考える力や、人づきあいの上手さなどです。

ただ、ある職種にとって具体的な能力であっても、実はそれが他でも有効な抽象的な能力となることもあります。逆に、一般的には抽象的な能力となることであっても、ある特定の職種をその職種たらしめる具体的な能力になることもあります。つまり、何が具体で何が抽象かというのは場合によってかわってくるし、それぞれに具体的に分類がされるようなものではないということです。

たとえば介護福祉事業所の具体的な能力

介護福祉事業書を例にして考えると、具体的な能力とは介護に直接的に役立つスキルになります。たとえば、ベッドに寝ている利用者さんの体の向きをかえる動作、その能力。高齢者介護を仕事としてやっていくために必要な高齢者の体についての知識。こういうものは介護福祉事業所において求められる具体的な能力です。

具体的な能力は直接的にその仕事に必要な能力なので、それがなければ始まらないし、職業訓練や資格試験などで中心的な項目として挙げられます。そして、なぜそれが必要なのかが誰にでも分かりやすいものとなります。

たとえば介護福祉事業所の中傷的な能力

反対に抽象的な能力はその仕事じゃなくても有効な能力であり、場合によっては、なぜその仕事に必要なのか分かりにくかったり、なくてもその仕事じたいは成り立つようなものです。でも、あるに越したことはない、という感じです。

たとえば介護福祉事業所において、論理的な思考は抽象的な能力になります。介護のノウハウを完璧に記憶して、動作としても実行できる能力があれば、職場で論理的な思考を発揮する場面がないかもしれません。でも、あるに越したことはありません。ちゃんとノウハウをマスターしていれば、なくても介護の仕事じたいは成り立つかもしれません。でも、あるに越したことはありません。

抽象的な能力を伸ばす必要があるかどうか

いわゆる即戦力としての成長を期待するならば、ぜひとも具体的な能力を成長させるべきだと思います。それが仕事の質や効果に現れやすいものですからね。介護の腕前がアップすれば、介護の仕事の質が上がったことと同意のはずです。

では、直接的に役に立つわけではない抽象的な能力は、伸ばす必要がないのかというとそうでもないと思います。パッと考えると役に立つのかどうか分かりにくい能力であっても、多くは間接的に仕事の役に立ちます。そして、抽象的な能力が高い人ほど、応用的に仕事の質を高められるし、これまでになかった角度から仕事を見つめられるように感じます。特に、停滞感のある職場では、抽象的な能力が現状を高いするために役に立つ可能性が相対的に高いのではないでしょうか。

緊急性が低いけど重要なのが抽象的な能力

優先度を考えるフレームワークの中で、「緊急度が高いけれど重要度が低い」という項目と、「緊急度が低いけれど重要度が高い」という項目の比較の話が出てきます。緊急度の高さに目が行ってしまってそっちを先にやりがちだけど、重要なことは緊急度が低くても先にとりかかるべきであるという考え方です。抽象的な能力といっているものの中には、緊急性が低いのに意外と重要性の高いものが潜んでいます。どれがそれに該当するのかはケース・バイ・ケースですが、重要度の高い抽象的な能力を見落とさないようにしてください。

教育係は誰にする?【零細企業の人材育成】

人材育成コンサルタントの永江です。

零細企業であればあまり頻度は高くないはずですが新規で人を採用することがあります。とうぜん、そのときには誰かがその新人さんを教育しなければなりません。あるていどの人員の規模がある会社ならば明確な教育係をつけることが多いようですが、零細企業では難しいことが多いです。単純に、教育・指導に人員を割く余裕がないということですね。

心構えについて社長が指導する

零細企業では新人教育がOJT的に現場で行われることが多いはず。それはそれで問題ないのですが、心構えについては社長が直接に指導するのが良いです。理由は簡単で、人数が少ないから。人数が少ないのだから下手に間接的に心構えを説くよりも、社長が直接に伝えるほうが社内でブレが生じなくて良いです。いくら少ない人数であっても、間に人が入ると、特に抽象的な概念については、悪い意味での「伝言ゲーム」になりかねませんから。

社員が持つべき心構えというのは、その会社の理念や方針に基づくものになるはず。そして零細企業ならそれは基本的に社長の考えや信念によって成立するはず。だから、それについては社長が自分で伝えるのがよくて、新人さんにかぎらず、誰に対しても社長が語るのがよいと思います。

技術や知識について社長が教える

さらに、技術や知識についても社長が教えるとよいケースがあります。それは、社長がその会社でいちばんの技術者である場合。零細企業だとそういうケースも珍しくなく、一人ひとりの社員に対して社長が直接の指導をします。先輩社員に対してそうしてきたように、新人さんにもそうします。

ただ、このケースだと社長の負荷が高くなりすぎる恐れもあります。社長がいちばんの技術者であれば、まだ現場で活躍をしているのでしょう。そうすると、労働者としての社長と、指導者としての社長、両方の役割を果たさなくてはいけないからです。本来なら経営者の仕事は経営であって、現場は徐々に従業員に任せるのた理想です。でも、現場から仕事を始めてきた社長さんにとっては、なかなか難しいものですね。でも、将来のことをちゃんと考えるなら、社長は社長の仕事に専念すべきです。

他のスタッフが教育担当となる

自分がいちばん分かっている、できている、そんな自覚のある社長さんは、現場の仕事も新人教育も自分でやりたがります。だから他のスタッフを教育担当にしても、うまく指導できているか気になってしかたないかもしれません。さらに、「指導のしかたが良くない」と言ってついには口を出してしまうかも。

学ぶことの全般に言えることですが、人に説明したりするアウトプットは、説明する人自身にとって学習効果を高めます。だから、教育係になっている先輩社員にとっても、新人さんに何かを教えるのは勉強になるのです。せっかくの学びの機会を奪うのも良くないですから、指導を任せたのならしっかり任せきりましょう。

教育を外注する

指導内容によっては、教育を外注することも検討できます。自社の中にしかない技術やノウハウなら別ですが、そうでなければ外の機関にお任せするのもいいかもしれません。よくあるケースだと、ビジネスマナーのようなものや、業界として一般的に必要となる知識などを外注します。複数の企業の新人さんが一緒に参加できるセミナーや講座もあるので、零細企業にとっても負担がそれほど高くならずに教育の機会を設けられます。

教育を外注するときの注意点としては、社長の考え方や理念に合致した内容になっているかどうかです。複数の企業が参加する場合だとカスタマイズが難しいですから、事前になるべく詳しく内容を確認できたらいいですね。とはいえ、外部の人間と接してなんとなく指導を受けることも刺激になってよいという考えもあるので、そういう目的であればあまり慎重になる必要もないでしょう。

けっきょくケースバイケース

ここまで書いておいてアレですが……。零細企業において教育担当をどうするのかは、けっきょくケース・バイ・ケースです。社長の個性や考え方。既存の従業員がどうなのか。会社として必要な教育内容はどうなのか。規模が小さい企業だからと一括りにするのは難しいです。だから、その新人さんがどういう人なのか、仕事人としてどういうレベルなのか、どういう教育が必要なのか。よく考えて教育担当をどうするのか検討しましょう。以前にやったことがうまくいったとしても次はそれが適切とは限りません。以前の好例を踏襲してうまくいく可能性は、零細企業の場合は比較的に低いです。だから、あるていどの柔軟性を持って、従業員教育を考えていくのが良いと思います。

何について成長してもらうかを特定する【零細企業の人材育成】

人材育成コンサルタントの永江です。

なぜ私が人材育成コンサルタントとして零細企業を対象としているのかというと、小さな会社の中には育成を担当する係になる人が居ないことが多いからです。また、多くの零細企業の社長さんは、一部の業種をのぞいては教育や育成について苦手とする人が多いということもあります。事業の内容としている分野にはものすごい能力をお持ちだけれども人を育てる経験には貧しい。そんな人が多いような気がします。

ということで、ここでは零細企業の人材育成を考えるときの「何について成長してもらうかを特定する」ということについて考えてみましょう。

最初に人材要件ありき

零細企業は採用を感がるときに人材要件をあまり綿密に考えないことが多いです。あなたの会社ではどうでしょうか。現場の仕事と社長が非常に近いので、わざわざ人材要件を明らかにしなくても「知っている」からそうなるのではないかと思います。「わざわざ考えなくても、どんな人材が我が社にふさわしいか分かっている」ということです。でも、ここに注意しなくていけない点があります。

この件についてかぎらず、人は自分のアタマのなかにあることをきちんと整頓して理解していないことが多いです。だからこそ、よく仕事の仕方の話として「見える化」という言葉が出てくるのです。自己分析の場面でも、討論をする場面での、あらゆるところで文字や図表などにして「見える化」をするのが良いです。そして、その「見える化」によって、社長さんのアタマのなかにある人材要件を明らかにしてください。それがスタッフの育成や教育を考えるスタートです。

人材要件の中で何を伸ばすか

人材要件が明らかになり、その要件にピッタリはまる人が採用できればよいですが、現実にはなかなか難しいと思います。また、当初は満足できていたけれども、日々の仕事の中で「もっと成長していほしい」と考えるようになることもあるはずです。そのときに考えることはどの能力を伸ばしてもらうのが優先されるかということです。

人材要件を明らかにしたら、おそらくそれは複数の項目になっているはずです。そのすべてについて成長してくれるのがいいのですが、まずは「今」どれを優先したいかを考えてください。優先順位は時期によってちがうかもしれないし、外的な要因によって変化する可能性もあります。だから決めたらぜったいに変更しないというものではなくて、「まず、今なら、どれ」と考えてください。

伸ばすものは1時期について1つ

従業員の教育を考えるときに、1つの時期にあれこれといくつもの能力やスキルを伸ばさせようとするのは良くないように思います。たとえば学校の勉強のように数学と英語を同時期に学ぶのはいいです。ただ、実際の現場で役立つスキルというのは、いったんひとつに絞って考えるのがいいです。それはなぜでしょうか。

零細企業の社員教育は、おそらくOJTになることが多いはず。毎日の仕事をしながらその中で何かについて今より良くなることを目指します。通常の仕事をしながらということは、いったんそこまでに覚えたり出来るようになったりしたことをアウトプットしながらということになりますが、これをやりながら新しく自分の成長のたかに意識を持つことは簡単ではないでしょう。ほとんどの場合で「あれもこれも」は失敗します。意識は少なめのことに向けさせて、「まず1つ」という感じで絞って指導すると成長の有無や度合いの確認もしやすいのでお勧めします。

待つことも社長の仕事

せっかちな社長さんは、従業員を教育するための取り組みを始めると、早く結果を欲しがります。気持ちは分かるのですが、内容によってはそう簡単ではない場合も少なくありません。たとえば家電品のような機械を操作するスキルは短時間で身につけられます。しかし、パソコンのタイピングのようなスキルは成長のための時間が非常に長くかかります。そういうときに急いでも無理があるということです。

あるいは同じことを身につけるにしても人によって必要な時間や期間が異なります。社長が思っていたより早いこともあれば遅いこともあります。私は、社長が持つべき覚悟のひとつに、この「成長を待つ」ということも含まれると考えています。どんな人間もあるていどの成長はするのだけれど、それには一定の時間が必要。待つことも社長の仕事だと考えて、慌てることなく、成長を促す施策を実行しましょう。

社員教育の難しさ【零細企業の人材育成】

永江です。
先日、地元石川県、金沢市にある企業の社長さんとお話をしてきました。
内容は主に、その会社の社員教育についてです。

その企業さんとは、軽めのコンサルタントとしてお手伝いをする関係で、
何人かのスタッフさんとは面識がありますが、それほど詳しく知っているわけではありません。

金沢といえば石川県の県都ですし、
会社の立地もよくて、必要なときに求人を出せばすぐに新しい人材の確保ができるそうです。

でも、
課題になっているのが、入社した後の教育について。
育てるのが難しくて、いつもいるも困っているとのことでした。

 

定義としては零細企業に分類されると思いますが、
パートさんを含めて10人くらいの規模です。

そうすると、1人のスタッフが良い状態であるとか悪い状態であることが、
業務全体におよぼす影響が大きいんですね。
だから、ちょっと気になるところがあるとすぐにどうにかしようと考えるわけです。

とはいえ、
何か問題になるところがあったときに、
それを改善して良くなっていくために必要な指導は、
人によって違います。

厳しく注意すると良いこともあれば、
優しく諭すようなことがその人に良い影響を与えることもあります。

この点は塾や学校での教育も同じだと思うのですが、
けっきょく、その人に合った指導の仕方、教育の仕方があって、
それを見極めないとうまくいかないかもしれないということです。

 

なにかの雑談のついでで、
「どうやったら教育がうまくいきますかね?」と訊かれることがあります。
まあ、なにげない一言ではあるのですが、
社長さんが求めているのは「個別ケースの解決策」なのですが、
この質問の仕方が「普遍的な解決策」を求めるもののように感じます。

社員教育も子供の教育も、相手はユニークな人間です。
他に同じ人はいない個性をもった存在です。

だから、
普遍性を探るのは私たちのような仕事をしている人や学者にまかせて、
経営者のみなさん、あるいは子供を持つ親御さんは、
眼の前にいる個性ある相手に対して有効な、
個別の対処をしていかなくてはいけないんですね。

とはいえ、とはいえ、
その個別の対処のヒントとなるのは普遍的な事柄であったりもします。

なにやら哲学的な思考に入っていきそうですが、
個別の解決策をさぐるために、普遍的な解決策のパターンを知ろうとする、
そういうことは思考方法としては有効なのではないかと思います。

 

個別の対処において明確な正解はなかなか見つけられないのでしょうが、
そうやって思考を重ねて諦めないことは大切なのかもしれません。

偉そうに書いている私自身もそうです。
たとえば塾の生徒で無事に志望校に進学した子がいても、
最良の指導をできていたのかというと「たられば」論になってしまいます。
本当はもっと伸ばせてあげられたかもしれないと考えるとキリがありません。

 

冒頭の社長さんとはこういう会話をして終わりました。

社長さん
「本当に社員教育は難しいですね」

永江
「難しいと感じていらっしゃるうちは大丈夫ですよ。」